「まちやど」とは?
「まちやど」は、まち全体を一つのホテルと見立て、まちぐるみで宿泊客をもてなす観光形態のことを言います。街中にある各小規模ホテルと地域の日常(飲食店、銭湯など)をつなぎ、地域に根差した観光体験を作りだします。
詳しくはこちら:【地域資源をフル活用した新しい観光様式】いま話題の「まちやど」とは | WAGO TAIKI BLOG (taiki-wago.com)
旅の新たな様式として、全国でも徐々に注目を集める「まちやど(分散型ホテル)」。街中に点在する空き家・空き室をリノベーションし、ネットワーク化して一つのホテルとして営業する形態を言います。
川崎市の「まちやど(分散型ホテル)」事情
川崎市においても、一部の事業者はこうした取り組みを模索しています。他地域のような歴史を活かしたインバウンド向けの観光施策ではなく、「観光と暮らしの間」というコンセプトで、川崎市内の街に「移住体験」ができるような「まちやど」です。
- 新たに川崎市に移り住みたい方
- ワーホリや長期旅行で日本に滞在して日本の暮らしを体験したい外国人
- 地方から新たな刺激を求めてワ―ケーションに来る人
川崎市においては、川崎区から麻生区まで各区の特色を活かした「まちやど」の作り方次第で、「観光最弱都市」川崎の新たなビジネスモデルになる可能性もあります。特に、人口減少社会の今、「空き家」「空き室」等の遊休不動産を活用して関係人口を増やしていくまちづくりは、人口増加中の川崎市と言えど、将来を見据えて着手していかなければなりません。
参考例:HAGISO Inc. | hanare(東京都台東区谷中)
しかしながら、川崎市ではホテル・旅館・簡易宿所どれも「玄関帳場(フロント)」を各施設に必ず設置する様に義務付けられているため、フロントを1カ所に絞り部屋を街中に点在させる「まちやど(分散型ホテル)」は制度上認められておりません。
【旅館・ホテル営業/簡易宿所営業】
◯玄関帳場とは、旅館の玄関に附設された会計帳簿、宿泊者名簿等を記載するための帳場(ホテルの場合は、フロ
ントと称される。)をいうこと。
◯宿泊しようとする者との面接に適するの要件は次のとおりであること。
- 施設を利用しようとする者が、当該施設を利用しようとする場合に、必ず通過する場所に面して設けられていること。
- 従業員が待機し、客と面接し、事務をとるのに適した広さと構造のものであること。従って、社会通念上適当な規模の広間であることを要し、また、客と従業員とが対面できる構造でなければならないこと。
◯宿泊客が従業員と面接せずに利用できるなど不健全な営業形態の旅館を排除するため、玄関帳場において必ず客と面接したうえで施設を利用させること。
川崎市旅館業法施行条例 により規定
◯駐車施設から上記の玄関帳場を通らず、直接個々の客室の出入りすることができる構造でないこと。
◯宿泊者等が玄関等から容易に見通すことができ、必ず通過する場所に位置していること。
◯玄関帳場に設ける受付台は、宿泊者等と直接面接できる構造であり、事務を行うのに適した広さ及び照明設備を有し、かつ、カーテン等により遮蔽されていないこと。
国では2018年の玄関帳場設置義務緩和の法改正が行われ、各自治体にも併せて条例改正するように通達がきておりますが、川崎市は「宿泊者の安全」と「善良の風俗の保持」などを理由に条例改正を行っておりません。
川崎市における「まちやど」のハードルと国の制度との乖離
玄関帳場の設置義務 | 2018年法改正前 | 2018年法改正後 |
ホテル・旅館:あり | 代替設備可 | |
簡易宿所:なし(市の条例で設置義務あり) | なし(市の条例で設置義務あり ※代替設備可) |
2018年の法改正で、玄関帳場の設置義務緩和とともに、1施設あたりの部屋数の制限がなくなった為、1室からでも旅館・ホテル営業が可能になりました。また、複数物件を一体で営業許可をとることができるようになった為、これを機に分散型ホテルの営業ができるようになりました。
しかし、川崎市では玄関帳場のICTによる代替措置は認めているものの、設置義務は簡易宿所においても設けられたまま。「まちやど」の運用として各宿に有人フロント機能を付けることはほぼ不可能ですし、代替設備も各部屋ごとに設けていては事業者にとってかなりの負担となってしまいます。つまり、簡易宿所における玄関帳場の設置義務緩和をしなければ、「まちやど」実現のハードルはかなり高いものになるのです。
平成29年12月15日には、厚生労働省大臣官房生活衛生・食品安全審議官から川崎市長宛てに下記の通達も送られてきておりますが、川崎市では対応することはありませんでした。
【簡易宿所営業における玄関帳場等の設置について】
簡易宿所営業における玄関帳場等の設置について
簡易宿所営業については、旅館業法施行令(昭和 32 年政令第 152 号)における構造設備基準において、玄関帳場その他これに類する設備(以下「玄関帳場等」という。)に関する規定を設けていない。
他方、旅館業における衛生等管理要領(平成 12 年 12 月5日付け生衛発第 1811号厚生省生活衛生局長通知「公衆浴場における衛生等管理要領等について」別添3。以下「要領」という。)においては、かつて簡易宿所営業の施設設備の基準として「適当な規模の玄関、玄関帳場又はフロント及びこれに類する設備を設けること。」と示していたが、「旅館業法施行令の一部を改正する政令の施行等について」(平成 28 年3月 30 日付け生食発 0330 第5号厚生省生活衛生局長通知)において、要領の当該規定を「適当な規模の玄関、玄関帳場又はフロント及びこれに類する設備を設けることが望ましいこと。」と改正し、簡易宿所営業における玄関帳場等の設置について条例で規定している都道府県等(保健所を設置する市及び特別区を含む。以下同じ。)に対し、実態に応じた弾力的な運用や条例の改正等の必要な対応についての特段の御配慮をお願いしたところ。現時点では、一部の都道府県等において、玄関帳場等の設置について引き続き条例で規定しているところである。今般、「「歴史的資源を活用した観光まちづくりタスクフォース」における取りまとめ」(平成 29 年5月 18 日)(別添参考資料参照)を踏まえ、複数の簡易宿所において共同で玄関帳場等を設置する場合の取扱いについて、以下のとおりお示しするので、条例により簡易宿所営業における玄関帳場等の設置を義務づけている都道府県等におかれては、改めて、特段の御配慮をお願いしたい。
記
1.都道府県等が、条例で、簡易宿所営業の施設に対し玄関帳場等の設置を求めている場合において、
(1)一の営業者が複数の簡易宿所を運営するときに、一の玄関帳場等を設置して、それら複数の簡易宿所の玄関帳場等として機能させること。
(2)複数の簡易宿所の営業者が、共同して一の玄関帳場等を設置して、それら複数の簡易宿所の玄関帳場等として機能させることは、緊急時に適切に対応できる体制が整備されていれば差し支えないこと。
2.1の(2)にいう「緊急時に適切に対応できる体制」とは、宿泊客の緊急を要する状況に対し、その求めに応じて、通常おおむね 10 分程度で職員等が駆けつけることができる体制を想定しているものであること。「緊急時に適切に対応できる体制」が整備されているか否かは、基本的に、職員等が駆けつけるために通常要する時間によって判断されるべきであり、また、職員等が玄関帳場等から駆けつけるとは限らないことから、玄関帳場等からの距離によって機械的に判断するような取扱いは想定していないので、御留意いただきたい。
3.1の(2)により、複数の簡易宿所の営業者が、共同して一の玄関帳場等を設置する場合には、玄関帳場等を設置する営業者が他の営業者が営業する簡易宿所の宿泊客の宿泊者名簿の作成等を行うことが想定されるため、個人情報の取扱いについて関係法令の遵守等、特に留意が必要であることにつき、関係者に対する周知等をお願いする。
また、平成29年度全国生活衛生・食品安全関係主管課長会議資料では下記の記載が見られますが、市は条例に基づいた運用をするということで分散型ホテルは認められませんでした。
複数の簡易宿所が共同で玄関帳場等を設けるサテライト型簡易宿所について、(中略)緊急時に対応できる体制がとれていれば、サテライト型簡易宿所は認められる(条例で玄関帳場等の設置義務がかかっていても当該条例違反とならない)との考え方を示したところ。
平成29年度全国生活衛生・食品安全関係主管課長会議資料 より
県内の事例
神奈川県内では、三浦市で「三崎宿」という分散型ホテルが営業しています。
詳しくはこちら:三浦半島の旅宿【三崎宿】公式Webサイト|酒宿山田屋|江戸の蔵宿|古民家の旅宿|本陣| (misakijyuku.jp)
こちらは県の条例に基づき、簡易宿所(玄関帳場設置義務なし)で営業許可を1施設ずつ取得して営業しているようです。フロントは1施設に集中させ、各宿には防犯カメラ等の安全対策を講じて分散型ホテルとしての機能を果たしています。
現行制度でどう実現するか
条例改正にハードルがある以上、現行制度で「まちやど」を実現するしかありません。現在、地元事業者と協力して下記手法に基づいて「まちやど」実現に取り組んでおります。
〇営業許可
旅館ホテルまたは簡易宿所で申請
〇玄関帳場
・「拠点フロント」施設と各宿に「ICT設備付き簡易フロント」設置(タブレット等を用いた面談&チェックイン機能)
・建前上はICT設備を通して各部屋でチェックインをするが、運用上は「拠点フロント」でチェックインしてICT設備は最低限の利用
上記手法で事業をスタートして、これが地域の関係人口増加に繋がる糸口となれば条例改正も前向きに進むかもしれません。引き続き、働きかけを続けていきます。
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